English Poetry and Literature
HOMEブログ本館東京を描く水彩画ブレイク詩集フランス文学西洋哲学 | 万葉集プロフィールBSS



シェイクスピアのソネット119  What potions have I drunk


  何という妙薬を私は飲んだことか
  それは汚らしいランビキで蒸留したシレーヌの涙
  恐れには希望を 希望には恐れを処方するというが
  勝ったつもりが負けてばかりの有様なのだ

  何といまいましい間違いを犯してきたことか
  それなのに私は幸福だと思い込んでいたのだ
  私の目玉は眼窩から飛び出し
  狂熱の錯乱にはまっていたのだ

  だが悪にも恩恵がある
  善は悪によってより良くもなるのだ
  躓いた愛が再びよみがえるとき
  それは以前よりも清らかで 力強く 偉大になる
    だから私は非難を浴びながらも満足し
    悪によって以前より三倍も多くのものを得るのだ


錬金術は、シェイクスピアの時代にあっては、生々しい現実としてあったようだ。エリザベス女王自身も、コーネリアス・デ・ラムノイという錬金術を雇い、彼の技を利用して財政を豊かにしようと考えたほどだった。もちろんラムノイは黄金を作り出すことに失敗し、ロンドン塔に放り込まれた。

ランビキは錬金術に用いられる大型のフラスコのようなもの。シレーヌはホメロスのオデッセイアに出てくる怪物で、船乗りたちを豚に変えてしまうと描かれている。そこから物質を変化させる錬金術のイメージと結びついたのだろう。

シェイクスピアはこの詩の中で、青年から離れて錬金術に没頭したことを後悔している。しかしラムノイと同じように、錬金術からは何も得られなかった。やはり自分はありのままの青年の姿をそのままに受け止めるべきなのだと、改めて青年への愛を誓う。








SONNET 119 ーWilliam Shakespeare

  What potions have I drunk of Siren tears,
  Distill'd from limbecks foul as hell within,
  Applying fears to hopes and hopes to fears,
  Still losing when I saw myself to win!

  What wretched errors hath my heart committed,
  Whilst it hath thought itself so blessed never!
  How have mine eyes out of their spheres been fitted
  In the distraction of this madding fever!

  O benefit of ill! now I find true
  That better is by evil still made better;
  And ruin'd love, when it is built anew,
  Grows fairer than at first, more strong, far greater.
    So I return rebuked to my content
    And gain by ill thrice more than I have spent.

Still:always、spheres:sockets、distraction:狂熱、rebuked:叱責を受けて、to my content:私の愛する者へと





前へHOMEシェイクスピア次へ






作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2008
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである