English Poetry and Literature
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シェイクスピアのソネット48


  旅に出るときわたしは 念には念を入れて
  こまごまとしたものを金庫にしまって鍵をかけ
  わたしがそれらを使うまでは
  誰にも使われないよう気をつけたものだ

  君にとってわたしの宝などガラクタに過ぎないだろう
  だが君はわたしの慰めであり いまは悲しみの種なのだ
  わたしの愛しいただ一人の人であるその君を
  わたしはむざむざ泥棒の餌食にしてしまった

  わたしは君を箱に入れて閉じ込めてしまうかわりに
  わたしの胸の中にしまったのだった
  君がいつでも出入りできるようにと
  だがそこは君がいるようで 本当はいないところ
    わたしの胸の中からでも君は盗まれてしまう
    そんな高価なものを見ては正直者も泥棒を働くものだ


愛する青年を失ったことを、自分の不注意に帰しているこの詩には、青年の裏切りに対して寛大であろうとする詩人の気持ちがよく現れている。

ものであれば、頑丈な金庫の中にしまって、人の手から盗まれないようにすることもできるだろうが、人間ではそういうわけにはいかない。それが盗まれてしまうのは、美しく、人の気持ちをそそり立てる魅力を備えている証拠なのだ。

冒頭の言葉「旅に出る」が本来の旅をさしているのか、シェイクスピアの心の油断をさしているのか、詳しいことはわからない。








SONNET 48  William Shakespeare

  How careful was I, when I took my way,
  Each trifle under truest bars to thrust,
  That to my use it might unused stay
  From hands of falsehood, in sure wards of trust!

  But thou, to whom my jewels trifles are,
  Most worthy of comfort, now my greatest grief,
  Thou, best of dearest and mine only care,
  Art left the prey of every vulgar thief.

  Thee have I not lock'd up in any chest,
  Save where thou art not, though I feel thou art,
  Within the gentle closure of my breast,
  From whence at pleasure thou mayst come and part;
    And even thence thou wilt be stol'n, I fear,
    For truth proves thievish for a prize so dear.

I took my way:旅に出かける、under truest bars to thrust;投げ入れて閂をかける、That to my use it might unused stay:私が使うまでは誰にも使われないように、thatはso thatの意、Save:except, 





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