English Poetry and Literature
HOMEブログ本館東京を描く水彩画ブレイク詩集フランス文学西洋哲学 | 万葉集プロフィールBSS

美しいけれど無慈悲な乙女
La Belle Dame Sans Merci :キーツ


  いかがなされた 鎧の騎士
  ひとり青ざめ さまよわれるとは?
  湖畔の草はことごとく枯れ
  鳥の声もせぬというのに

  いかがなされた 鎧の騎士
  目は落ち窪み 悲痛な表情で?
  リスは冬支度の餌をため
  刈入れは終わったというのに

  あなたの額はユリのように白く
  苦悩のあまりに冷や汗がにじんでいる
  あなたの頬も色あせたバラのように
  血の気がうせてしまったようだ

  わたしはある婦人と草原で出会ったのだ
  世にも美しく 妖精のような人
  髪は長く 足元は軽やかに
  瞳は野生の輝きをもっていた

  わたしは花輪を編んで彼女の髪を飾り
  香りに満ちたブレスレットを贈った
  彼女は小さな声をたててわたしを見たが
  わたしを愛しているようだった
 
  わたしは彼女を馬に乗せて
  一日中彼女を眺め歩いた
  彼女はわたしのほうに身を向けながら
  妖精の歌を歌うのだった

  甘い木の根や蜂蜜やしずくを
  彼女はわたしのために見つけてくれた
  そして聞きなれぬ言葉でいうのだった
  “あなたを心から愛しているわ”と

  彼女はわたしを洞窟に導き
  さめざめと泣いてはため息をついた
  わたしは彼女の目に四回もキスし
  彼女の瞳を閉じさせてあげた

  彼女の歌に わたしは眠り
  悲痛極まる夢をみた
  最初で最後の奇怪な夢
  寒々とした丘を舞台にした夢だ

  夢の中の青ざめた王と王女たち
  戦士たちが 絶望の叫びをあげた
  “美しいけれど無慈悲な乙女が
  わたしたちをとりこにした“と

  彼らは乾いた唇を大きく開き
  わたしに恐ろしい警告をしているのだった
  わたしは驚いて目覚めると
  寒々とした丘のほとりにいたのだった

  それ故わたしはここにいるのだ
  一人青ざめて さまよいながら
  湖畔の草はことごとく枯れ
  鳥の声もせぬというのに


「美しいが無慈悲な乙女」と題するこの詩は、中世のメルヘンを題材に取った幻想的な雰囲気の作品である。キーツが素材に採用したのは、フランス中世の宮廷歌人アラン・シャルチェの同名の作品で、キーツはそれをチョーサーの訳で読んだらしい。

美しい乙女が実は魔物の化身であって、それが美しさを餌に、旅人をかどわかして食ってしまうという趣向の話は、魔女伝説のヴァリエーションとして、ヨーロッパの中世社会に流布していたらしい。キーツはそれに興味を覚えて、この作品にしたのだろう。キーツにしては珍しい試みだったといえる。

なお、この詩はオリジナルのものと、発表されたものとでは、異なる部分がいくつかある。たとえば冒頭の knight-at-arms は、発表されたときには Wretched Wight に改められているといった具合だ。キーツはリー・ハントの忠告を受け入れて書き直したらしいが、今日両者を比較してみると、オリジナルのほうがよいようだ。ここでも、それを採用している。








La Belle Dame Sans Merci

  Oh what can ail thee, knight-at-arms,
  Alone and palely loitering?
  The sedge has withered from the lake,
  And no birds sing.

  Oh what can ail thee, knight-at-arms,
  So haggard and so woe-begone?
  The squirrel's granary is full,
  And the harvest's done.

  I see a lily on thy brow,
  With anguish moist and fever-dew,
  And on thy cheeks a fading rose
  Fast withereth too.

  I met a lady in the meads,
  Full beautiful - a faery's child,
  Her hair was long, her foot was light,
  And her eyes were wild.

  I made a garland for her head,
  And bracelets too, and fragrant zone;
  She looked at me as she did love,
  And made sweet moan.

  I set her on my pacing steed,
  And nothing else saw all day long,
  For sidelong would she bend, and sing
  A faery's song.

  She found me roots of relish sweet,
  And honey wild, and manna-dew,
  And sure in language strange she said -
  'I love thee true'.

  She took me to her elfin grot,
  And there she wept and sighed full sore,
  And there I shut her wild wild eyes
  With kisses four.

  And there she lulled me asleep
  And there I dreamed - Ah! woe betide! -
  The latest dream I ever dreamt
  On the cold hill side.

  I saw pale kings and princes too,
  Pale warriors, death-pale were they all;
  They cried - 'La Belle Dame sans Merci
  Hath thee in thrall!'

  I saw their starved lips in the gloam,
  With horrid warning gaped wide,
  And I awoke and found me here,
  On the cold hill's side.

  And this is why I sojourn here
  Alone and palely loitering,
  Though the sedge is withered from the lake,
  And no birds sing.





前へHOMEキーツ次へ







作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2008
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである