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雷がいったこと4:T.S.エリオット「荒地」



T.S.エリオットの詩「荒地」から「雷がいったこと」4(壺齋散人訳)

  一人の女が黒髪を引っ張ってぴたっと延ばし
  それを絃の代わりにメロディを紡ぎだした
  ベビーフェースの蝙蝠どもがすみれ色の光の中で
  キャーキャー泣きながらバタバタ羽ばたき
  頭を下に向け黒ずんだ壁を下りて行った
  空中では塔が逆さまに浮かび
  時を告げる追憶の鐘を鳴らす
  すると空水槽や枯井戸から歌声が聞こえて来た

  山の中のこの崩れた穴で
  かすかな月明かりを浴びて草が歌っている
  朽ち果てた墓の向う側 教会のあるあたり
  その教会は空っぽで 風が吹いているだけで
  窓はなく ドアはきしんでいて
  一羽の雄鶏が棟木の上に停まっている
  こけこっこ こけこっこ
  稲妻が光り 湿った風が
  雨を運んできた


この部分には原注がない。冒頭の女のイメージは、第三部のティレシウスの話に出てくる女のイメージを思い出させる。その部分で女は、「スムーズに髪をもみしだきながら 蓄音機にレコードをかける」のだったが、ここでは自分の髪を楽器代わりに使ってメロディを奏でる。

その後に続くのは、聖杯伝説による放浪の旅の様子。そこで、雄鶏が鳴いたのを合図に、雨が降り出す。雨が降ることは、荒地が潤されることを意味し、したがってこの物語が最後に近づいたということを感じさせる。






  A woman drew her long black hair out tight
  And fiddled whisper music on those strings
  And bats with baby faces in the violet light
  Whistled, and beat their wings
  And crawled head downward down a blackened wall
  And upside down in air were towers
  Tolling reminiscent bells, that kept the hours
  And voices singing out of empty cisterns and exhausted wells.

  In this decayed hole among the mountains
  In the faint moonlight, the grass is singing
  Over the tumbled graves, about the chapel
  There is the empty chapel, only the wind's home.
  It has no windows, and the door swings,
  Dry bones can harm no one.
  Only a cock stood on the roof-tree
  Co co rico co co rico
  In a flash of lightning. Then a damp gust
  Bringing rain





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