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火の説教2:T.S.エリオット「荒地」



T.S.エリオットの詩「荒地」から「火の説教」2:壺齋散人訳

  一匹の鼠が草むらのなかをはいずった
  ぬるぬるした腹を土手にこすりながら
  俺はといえば どろんとした運河で釣りをしてた
  冬の夕方に ガスタンクの後ろで
  遭難した兄王のことや
  その前に死んだ父王のことを思いだしながら
  低湿地には裸の死体が白くなって転がり
  低くて乾いた天井裏では 毎年のように
  骨が鼠に蹴られてカタカタと鳴る
  背後で時たま聞こえてくるのは
  角笛の音や 警笛の音
  つられてスウィーニーがポーター夫人を訪ねにいくのは春のことさ
  ポーター夫人の頭上では月が輝き
  夫人の娘の頭上まで照らしていた
  二人はソーダ水で足を洗う
  ソシテ丸天井ノ聖堂デ歌ウ少年タチノ声

  トウィット トウィット トウィット
  ジャグ ジャグ ジャグ ジャグ ジャグ
  こんなにひどくせかされて
  テーレウー

  非現実の都市
  茶色いスモッグが垂れ込める冬の昼下がり
  スミルナの商人たるユーゲニデス氏が
  無精ひげを生やし ポケットには乾ブドウをいっぱい詰め込んで
  「ロンドン渡し運賃保険料込み一括払い手形」を持っていたが
  そいつが下卑たフランス語で誘ってきた
  キャノンストリート・ホテルで昼飯を食って
  その後週末にはメトロポールへ行きましょうや、と


この部分の語り手について、原注では、シェイクスピアの「テンペスト」一幕二場を参照するよう求めている。その部分では、エアリエルの歌声を聴いたファーディナンドが溺死した父親を思い出す場面が出てくる。エリオットはそれを引用することで、水死のイメージを喚起しているわけだ。

「背後でときたま」以下2行はアンドリュー・マーヴェルの詩「恥じらう恋人」からの引用。また「つられてスイーニーが」以下4行はジョン・デイの詩「蜂の会議」のもじり。その部分では、裸で水浴するディアナにアクタイオンが近づく様子が歌われている。

「ソシテ」以下の一行はヴェルレーヌのソネット「パルジファル」からの引用。つづく「トウィット」以下は、少年たちならぬ鳥たちの鳴き声。トウィットは燕、ジャグはナイチンゲール、テーレウーはナイチンゲールに変身したピロメラ姫の物語に出てくるテレウスのこと。

非現実の都市とはロンドンのこと。そこで手形を持った男がホテルに誘ってくるが、それは男色行為への誘惑だと受け取れる。






  A rat crept softly through the vegetation
  Dragging its slimy belly on the bank
  While I was fishing in the dull canal
  On a winter evening round behind the gashouse.
  Musing upon the king my brother's wreck
  And on the king my father's death before him.
  White bodies naked on the low damp ground
  And bones cast in a little low dry garret,
  Rattled by the rat's foot only, year to year.
  But at my back from time to time I hear
  The sound of horns and motors, which shall bring
  Sweeney to Mrs. Porter in the spring.
  O the moon shone bright on Mrs. Porter
  And on her daughter
  They wash their feet in soda water
  Et, O ces voix d'enfants, chantant dans la coupole!

  Twit twit twit
  Jug jug jug jug jug jug
  So rudely forc'd.
  Tereu

  Unreal City
  Under the brown fog of a winter noon
  Mr Eugenides, the Smyrna merchant
  Unshaven, with a pocket full of currants
  C. i. f. London: documents at sight,
  Asked me in demotic French
  To luncheon at the Cannon Street Hotel
  Followed by a week-end at the Metropole.





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