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死者の埋葬4:T.S.エリオット「荒地」



T.S.エリオットの詩「荒地」から「死者の埋葬」4(壺齋散人訳)

  非現実の都市
  冬の明け方の茶色い霧の中を
  群衆がロンドンブリッジに溢れた
  こんなにも沢山の人たちが死神に取りつかれたなんて知らなかった
  短いとぎれとぎれのため息を吐きながら
  どの人もうつむき加減に歩いている
  勾配を上りキングウィリアム通りを下り
  聖ウルノス教会の所に来ると
  沈んだ音が丁度9時の時報を告げ終わったところだった
  そこで顔見知りの男を見つけて声をかけた 「ステットソン!
  君とはミライの海戦で一緒だったね
  去年花壇に植えたあの死体はどうしたかね
  芽を出したかね? 今年は咲くかな?
  それとも苗床が急な霜でやられちまったかい?
  あの犬は近寄せちゃいかん あれは人間の友だからな
  前足の爪で苗を掘り返してしまうよ!
  君 偽善ノ読者ヨ 私ニヨク似タ人ヨ 我ガ兄弟ヨ!」


原注では、非現実の都市はボードレールを参照しろと書いてある。ボードレールは大都会であるパリを現実性に乏しい、幽霊がさまよっている都市として描いた。エリオットはそれをロンドンと重ねあわせてイメージしたのだろう。この都市でも、沢山の人々が死神に取りつかれているとされる。彼らが群を成して街を歩く光景は、ダンテの神曲の地獄篇を想起させる、と原注にある。ということは、ロンドンは幽霊がさまよう非現実の都市であるとともに、地獄そのものでもあるとイメージされているわけだ。

群衆と一緒に街を歩いていた語り手は、突然一人の通行人に語りかける。ミライの海戦とはローマとカルタゴが戦ったポエニ戦争の海戦。この海戦と第一次世界大戦とを重ねわせているようだ。

死体が芽を出すとは、死と再生をイメージしたものだろう。「あの犬は近寄せちゃいかん」以下二行は、原注ではジョン・ウェブスター「白い悪魔」からの引用とある。「君 偽善ノ読者ヨ 私ニヨク似タ人ヨ 我ガ兄弟ヨ!」はボードレールの詩集「悪の華」序歌の最後の部分を引用。






  Unreal City,
  Under the brown fog of a winter dawn,
  A crowd flowed over London Bridge, so many,
  I had not thought death had undone so many.
  Sighs, short and infrequent, were exhaled,
  And each man fixed his eyes before his feet.
  Flowed up the hill and down King William Street,
  To where Saint Mary Woolnoth kept the hours
  With a dead sound on the final stroke of nine.
  There I saw one I knew, and stopped him, crying "Stetson!
  You who were with me in the ships at Mylae!
  That corpse you planted last year in your garden,
  Has it begun to sprout? Will it bloom this year?
  Or has the sudden frost disturbed its bed?
  Oh keep the Dog far hence, that's friend to men,
  Or with his nails he'll dig it up again!
  You! hypocrite lecteur!--mon semblable,--mon frère!"





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